山蚕三丈(小柄唐花)のムジ染め。
父の承った仕事である。
悉皆帳面に「山蚕三丈」とあったが恐らく天蚕(てんさん)の山繭(やままゆ)糸を用いた三丈物(着尺)のことであろう。薄黄味色を帯びた染まらない糸、つまり山繭糸で織られた「小柄唐花」の地模様を持つ。この反物を 抹茶系の地色に染めてお召しになりたいとのご要望であった。先様は六十歳ほどのご婦人である。
黄味を帯びた地模様の浮き方は 地の染め色によって大きく変わる。お客様の雰囲気や年齢、きもののTPOなどを考慮し ご満足いただける染め色を決めるためにハギレで試し染めをする。
まずは お抹茶色に深みを加味した 日本の色名によるあいとのちゃとの取り合わせである。これでは地色に対して柄が立ち過ぎて 無理を感じる。
次に 山繭糸の色目にぐっと近いわかないろとの取り合わせ。いかがだろう、柄がおさわるどころか 地色・柄 共に立ち過ぎの感があるのではないだろうか。やはり先様の雰囲気に合うことが最優先でなければならない。
以上二通りの試し染めにて 父が染め出しに指定した色が うらは(ば)いろである。視野を狭くしたデジカメの画像によるこの色は 決してグレー系ではない。実際手に取って見てみると、微妙に香るほどの黄味を帯びた薄くて渋い灰緑…といった色味である。視覚的には地色と地模様がミックスされた状態(の色味)で きもの全体の雰囲気として印象付けられるのである。
お仕立て上がりである。どうだろう、しっくりなじんだ地模様に まだ経験の浅い私は驚きを隠せなかった。この写真ではお見せできないが、ご指定通り 縫い紋で五つ紋が入っている。お客様にも ご満足いただけるのではないだろうか。
こういう(まったりとした)雰囲気を好むのが やはり 京都はここ、二条新町で半世紀以上続けてきた白生地屋・当店の持ち味なのである。
さて、同じような山繭の三丈物をお手持ちのお客様がいらっしゃる。あの方なら どのような系統の地色で染めさせていただくのだろう。今から 承るその日が楽しみである。
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